PMS抑肝散加陳皮半夏の解析

抑肝散加陳皮半夏の解釈

イライラがあると良く使われる処方ですが…これで治らないことも多くあります。
その原因として柴胡剤と黄連剤の区別を付けることが出来ない医療関係者が多いこと。
また抑肝散加陳皮半夏には当帰が含まれていることでPMSは強くなること。
この様なことを考えていない医療関係者が多すぎるため…この処方の説明をします。

1)世の中の流れと柴胡剤
当院の開院当初は柴胡剤である加味帰脾湯を多く使っていました。1包が2.5グラムですが月に5キロ程度は使ったいた時がありました。そのときは時代が平和で胸脇苦満がある患者さんが多かったのだと思います。柴胡剤時代が平和の時に多く使われる処方だと感じられる一方で、今はストレスフルの世の中の様で黄連剤の適応の患者さんが殆どです。

2)PMSと柴胡剤
まだコロナの影響で精神が不安定になっている人が多くいます。この場合には柴胡剤の適応と思われる人は余りいません。加えて生理前に起きるPMSを抑肝散加陳皮半夏では「当帰」が含まれていますのでPMSは悪化に向かいます。それは当帰が下腹部の張りを強くさせるからです。

3)抑肝散加陳皮半夏の解析
抑肝散加陳皮半夏の適応になる身体は…
肝臓のうっ血が見られる一方で腹部の力や下腹部の力が低下しています。診察をすればお腹は結構ブヨブヨな状態だと思われます。この様な条件を満たさずにこの処方を簡単に使うことへの疑問があります。それでは抑肝散加陳皮半夏の解析を行ってみましょう。

抑肝散加陳皮半夏は以下の薬草構成になります。
抑肝散加陳皮半夏:柴胡・半夏5.0;朮・茯苓各4.0;川芎・当帰・釣藤・陳皮各3.0;甘草1.5

この薬草の構成からすれば、血熱を取る薬草は柴胡のみです。半夏と茯苓が入っていることも考えれば胃弱傾向であることは明白で、下腹部の力が下がっており当帰芍薬散の基本薬草である川芎・当帰などを入れている姿です。釣藤鈎は気持ちの安定の為に入れているのでしょう。

4)虚弱体質での抑肝散加陳皮半夏の投与
抑肝散加陳皮半夏の適応がある患者さんは少ないと思われます。まず現代では食生活が豊かで虚弱な人が少ないからです。今の自分の患者さんには抑肝散加陳皮半夏を単独で使っている患者さんはいません。実際にはただ一人、黄連解毒湯との合方として抑肝散加陳皮半夏を使っている患者さんはいます。この方の経過は順調です。

抑肝散加陳皮半夏も柴胡剤ですが…どう言う訳だが「柴胡剤」を使う医療関係者って多いですよね。今日(2024/07/12)の新患の患者さんは加味帰脾湯・香蘇散を使われていました。気持ちが安らかになるから「加味帰脾湯」や「香蘇散」とのことで投与されていると話されます。ただし申し訳ありませんが柴胡剤の適応はなく身体も丈夫そうで合わないのは明らかに思えました。 

5)柴胡剤と黄連剤の区別が出来ない医療関係者が多い
この様に漢方の臨床をしていて感じるのは「柴胡剤と黄連剤の区別がつかない医療関係者が非常に多い」ということです。この傾向は昔からで…柴胡剤ばかりを使う反面、黄連剤を使えない医療関係者の姿を思い起こさせます。自分の私見でしかありませんが「柴胡剤と黄連剤の区別がつかないで漢方薬を使っている方が殆どなのでは?」と思わざるを得ません。このことは漢方治療において大きな問題だと感じています。

胸脇苦満=柴胡剤、心下痞硬=黄連剤だけの目安では黄連剤は使いこなせないのが実情でもあるように思います。胸脇苦満と心下痞硬の区別が出来れば…柴胡剤と黄連剤の区別は出来るとの傷寒論の解説ですが、現状の人の感性で柴胡剤と黄連剤の区別は出来ないのでは?と思わざるを得ません。昔の人の感性は今の人の数十倍も豊かだったと感じます。今は物がありすぎて本来の人間が持っている感覚で身体を見つめるということが疎かになっていることが原因の様に感じられます。

胃熱が強く精神不安定で心療内科を紹介した患者さんもいますが当院に戻ってきた患者さんのことです。診察では胃熱が強く黄連剤の適応にも関わらず、柴胡剤である加味帰脾湯を使われていました。胃熱が強い人に加味帰脾湯を使えば胃熱はより強くなり精神不安定になります。この様な治療が普通に行われている現状を危惧しています。それは加味帰脾湯と同じである柴胡剤の抑肝散加陳皮半夏の投与と同じだと思われます。

6)まとめ
自分のクリニックでの漢方治療の臨床をしていると今の環境では、柴胡剤の適応は10~20%で、黄連剤の適応が80~90%になります。柴胡剤と黄連剤の区別が出来ると…この様な割合になると思います。その上に身体が丈夫である人が多い訳ですから抑肝散加陳皮半夏の適応例は少ないと思わざるを得ません。

精神安定剤的な漢方薬は柴胡剤だけではありません。それは抑肝散加陳皮半夏にも加味帰脾湯にも当てはまります。加味逍遥散も同じです。それも柴胡剤の適応が無ければ、まずは効かない薬であり、黄連剤の適応である胃熱を強くさせるだけで状態を悪くする結果になります。
最後に、ネットからの情報で「この処方が合っている」と安易に考え投与や自分から服用している姿が今の人の姿であるのが残念です。

2024/07/12更新

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