Case症例

胃潰瘍

胃潰瘍は胃酸過剰によりできるとされています。しかし症状が治らないひとも多いのが事実、そんな視点から胃潰瘍の考え方と治療を話してみます。

今はH2ブロッカーだけでなくプロトポンプ剤という強い胃酸止めもあります。それでも胃の症状が治らないと受診される方もいます。その真相はどこに?

胃潰瘍とは?

通常は強酸である胃酸の分泌に対し、胃内の粘膜は粘膜保護が作用し攻撃因子・防御因子のバランスが保たれている。胃潰瘍は主に、粘膜保護作用の低下によって防御因子が低下することで生じる、とされています。

また十二指腸潰瘍では、ヘリコバクター・ピロリ(H.Pylori)保菌者が多く、比較的若年者に多い。H.Pyloriが胃前庭部に潜伏し始め、持続的にガストリン分泌刺激が促され胃酸分泌過多を生じることによって生じると指摘されています。十二指腸潰瘍は食前・空腹時に痛みが増悪することが知られているが、摂食刺激によってセクレチンが分泌されガストリン分泌が抑制され胃酸分泌が少なくなるためと考えられています。

この考え方の問題点

本当に胃酸やピロリ菌だけが問題なんでしょうか?
どうして胃酸の過産生が生じるのでしょう?
また、どうしてピロリ菌が存在することを身体が許すのでしょうか?

そんなことからすれば、次の様な疑問点があります。
胃酸が出てくる根本的な原因があるかも知れない…。
ピロリ菌が存在している理由があるのかも知れない…。
そんな疑問を追及していくことが根本治療に結びつくと考えています。

漢方薬の不思議さ?

漢方薬での胃薬の構成に注目していると面白い事実がわかります。

胃だけに有効な薬草だけでは構成されていない様なのです。熱がある胃炎の場合に多い処方が黄連解毒湯や半夏瀉心湯です。この処方の共通点は「黄連(おうれん)」という薬草が含まれていることです。

色々な漢方処方を比較してみるとこの「黄連(おうれん)」という薬草は、左季肋部の上の熱を取る薬草らしいのです。具体的な身体の臓器としては「脾臓」の熱を取る薬草ということになります。

と、すれば、胃酸過多の多くは臓器の熱によって引き起こされている結論が浮かび上がります。加えて、その臓器とは「脾臓」ということになると思います。この場合は黄連剤を使います。プロとポンプ剤を使用していても胃の症状が治りないと受診する患者さんの殆どにはこの胃熱といわれる脾臓のうっ血があります。

※他には肝臓の鬱血による胃酸過多もあります。こちらでは柴胡剤を使います。

脾臓の熱と胃酸過多の関連性

胃潰瘍の原因解明においても下の火山の図を利用することが出来ます。

火山とマグマとの関係

噴火口はマグマの出口ですが、マグマが押し上がってこなければ、噴火はしません。こんな考え方が大切になってきます。

臓器であれば、大切なのは次の2つの要素です。
症状をだす臓器と原因となる臓器。胃潰瘍において、この火山の噴出が胃酸過多とすれば下からマグマを供給する場所が、脾臓の熱ということになります。

より具体的には、症状を出す臓器が「胃」であり原因となる臓器が「脾臓」ということになります。原因の臓器と症状を出す臓器が違うわけです。

現代医学の治療と漢方医学の治療

もしそうだとするならば、現代医学の胃酸を押さえる治療は、噴出しているマグマを押さえる治療に他なりません。漢方医学の脾臓の熱をとる治療は、マグマを作り上げているのを押さえる治療。そんなことになると思います。

比較して考えれば、胃酸を止める薬を使っても胃酸を作り出すのを指令している臓器のことを考えなければ治らない、という事実が浮かび上がってきます。

実際に、胃酸を防止する薬を飲み続けなくてはならないことが多いと言う現実。また、胃酸を防止する薬を飲み続けても症状がでることが多いと言う現実。「胃潰瘍は、胃酸や胃粘膜の様な胃だけの病気ではない」そんな結論になります。

この様に漢方薬は、そのような面白い現実を見せてくれます。
もちろん、胃酸を押さえる現代医学の治療も重要に他なりません。

実際の症状

役職上、宴会が多くお酒を飲む機会が多いという患者さんが来院しました。すでに強力な胃酸止めであるプロとポンプ剤を投与されています。ところが朝起きると気持ち悪いのが仕方ないとのことでした。この患者さんには胃熱と呼ばれる強い熱があり、これが原因と判断し胃熱を取る薬を投与しました。そんな治療をしていると朝の気持ち悪さがなくなってきたとのことでした。

胃酸止めも胃粘膜保護剤も大切だと思います。一方で胃熱という熱があることによって調子を崩しています。このため自分の治療の場合にはガスターなどの軽い遺産止めと共に胃熱をとる黄連剤を併用することもあります。これは今の医学が出来上がっていない証拠でもあります。でも、医療は日々進歩しています。いつか漢方的な病気を診る視点の大切さを知り、その考え方が現代医学にも入ってくると思わざるをえません。

但し、漢方治療をしているから現代医学の薬が不必要だとは思いません。現代医学の薬と共に漢方薬を併用して治療し、上部内視鏡(胃カメラ)で確かめながらの治療が必要不可欠に他なりません。

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